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一人カラオケに行きたくなるお話 上

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どうも、映画「君の名は」をまだ見ていないにわとりです。

すごく評判がよかったので気になります。

ただ、見た後に切なくなるのがなんとなく怖くて。

さて、今回は一人カラオケに行きたくなるお話(SS)です。

 

ーとあるネットカフェにてー

 

「逢いたいから~、恋しくてっ

あなたを想うほど~うぅぅぅううううううううっ、

ゲホッゲホッ。ゲフぅ。」

 

肝心なサビのところで、

咳き込み&ゲップという魔の二重奏に襲われた。

 

まぁ別に一人だし、

誰に聞かれてるわけでもないからいいんだけどね。

 

僕は至って平凡な、どこにでもいるしがないサラリーマン。

仕事帰りや休日はだいたいこの場所に来ている。

もちろん一人で。

 

だって一緒に遊ぶ友達がいないんだもの。

もちろん彼女なんているわけもないし。

まぁ気を遣ったりせず、

自分で好きなように歌って、

好きな時にスマホをいじったりトイレに行ったりできるからむしろ好都合なんだけどね。

 

と、虚勢を張ってみたりする。

うん、僕は孤独だ。

 

歌っていた曲がちょうど最後のサビを終え、

採点画面が表示された。

得点 85点

表現力 平均より低め

 

なぜかいつも表現力が低いのだ。

ちゃんとPVのヴォーカルと同じように

くねくねしたり手を広げたりしているのに。

 

まぁ所詮は機械、僕の表現力を理解するには10年早いさ。

そんなことを考えながら

飲み干したジュースを補充するため部屋を後にする。

 

・・・やっぱり炭酸系の飲み物はやめた方がいいのかな。

途中でゲップが出そうになるし。

 

ジョボボボボ

 

プラスチックのグラスに注がれる薄い黄金色の液体。

グラスを満たしたそれは紛れもない炭酸飲料、ジンジャエールだった。

そう、心に決めたこととはいえ、必ずしも行動に移せるわけではないのだ。

 

自分の部屋に戻るまでにいくつかの個室を通り過ぎる。

他の人が入っている部屋をあまり深く覗き込むのも失礼だし、チラッと目に映す程度で細い廊下を歩く。

 

部屋を覗いた時にお互いの目が合ったときの

あのなんともいえない感じは出来れば味わいたくはないけれど、やはり少し気になってしまう。

 

立って熱唱している人もいれば、タンバリンをフリフリしている人もいる。

さすがは金曜日の夜、

テンションが高くなるのも頷ける。

あぁ、みんな楽しそうだな。

 

よし、僕も歌おうか。

自分の部屋の扉の前に立つ。

中に誰かがいるはずはないけれど、一応中を覗き込んでから入室する。

 

以前、自分の部屋と間違えて他人の部屋の扉を開けたから、それが若干トラウマになっていたり。

 

よし、ちゃんと自分の部屋だな。

 

室内の照明はぼんやり明るい程度。

あまり眩しすぎるのは好きではないからね。

それに、室内が明るいと外からも見えちゃうし・・・

 

さぁ、次は何を歌おうかな。

歌う曲に悩んだときはランキングから探す。

もちろん僕が歌う歌手は決まっているので、その中でのランキングだ。

 

よし、これにしよう。

 

「もう、二人はお互いの過去に戻れない~

君が呟いて歩いた帰り道~」

 

最近暖かくなってきたとはいえ、まだまだ冬。

やっぱり季節に合った曲を歌わないとね。

 

「もうどれくらい~歩いてきたのか

街角に夏を~飾る向日葵~」

 

前言撤回。

季節とは真逆の歌を歌うのも、それもまた一興だ。

 

「何もかもが無駄に見えたあの日々が~今は愛しくて愛しくて~」

 

僕がこの歌手の中で一番好きな曲。

失恋ソングだけれど、

曲調も歌詞もPVも、何もかもに魅了される。

そして、別れたあの人を想ってみたりもする。

 

たぶん、第三者がこの時の僕を見ると

おそらく、遠い目をしているんだと思う。

歌に酔っているわけでもなく、

ただボーっと過去を振り返りながら、マイクに向かって声を出す。

時にシュールに見えてしまうこの感じもまた悪くない。

 

歌い終わって、一息つく。

ちょっと熱唱しすぎてしまったのかもしれない。

 

少し休憩、と先ほど注いだジンジャエールを口にする。特に理由もなくスマホなんかもいじったりして。

 

すると、どこかの部屋から聞き慣れた曲がかすかに聞こえてきた。

・・・から~♪

・・・の気持ちを言えず黙ることを覚えた~♪

 

あ!

僕が歌っている歌手の曲だ。

この歌手の曲を歌う人も珍しいな。

いや、結構有名な曲だから

他の人が歌うのも全然おかしくはないんだけど。

 

優しい感じの女性の歌声が

僕の部屋に流れ込んでくる。

もしかして、僕がこの歌手の曲ばかりを歌っていたから、影響されて、じゃあ私もこの曲を~

みたいな経緯があったりしたのかな。

カラオケあるあるではあるし、

あり得ないことでは・・・

うーん。

というか、上手い。

 

男性ボーカルで少しキーが高めということで

女性にとっては歌いやすいのだろうけども。

それでもすごく上手に歌われている。

 

この人が歌う、この歌手の曲をもっと聴いてみたい。

素直にそう思ってしまった僕がいた。

 

しかし、人の部屋に聞き耳を立てるような

そんな変態さんみたいになるためにここへきたわけではない。

 

僕は僕だ。

一人だから。

 

その言葉を刻み付けるように、いろいろな曲を歌った。

四季を感じる素敵な曲を、

絶え間なく愛を注いでみたり、

少しだけ弱気な自分を励ましつつ、泣きたくなるほど切なくなってみる。

 

あぁ、歌っている間は無になれる。

 

・・・

 

嘘だ。

過去を振り返ってみたり、こうありたいと、こうであればなぁと

頭の中は大忙しだった。

 

ふぅ。

 

別にお酒を飲んでいるわけではないけれど、

なんだか体が熱くなってきた。

 

ちょっと休憩しよう。

 

いつもの僕ならば、

ずっと歌い続けてもただ喉が枯れるだけで、体は元気なのだけど。

 

なんだか今日は、少し座ってボーっとしたい気分。

 

~♪

 

おそらく先ほどと同じ女性だと思う。

僕の歌っている歌手の曲が聞こえてくる。

 

あぁ、その曲もいいよね。

明るくて、でも季節違いの夏の曲で、

あなたはその切なさになんて名付けるの?

 

はっ、

僕は何を詩人ぶっていたのだろうか。

きっと肉体疲労と精神疲労の両方で少し頭がおかしくなっているんだ。

体を休めないと。

 

それからもずっとあの歌手の曲が聞こえてくる。

心地よい。

どの曲も音を外すことなく歌っている。

 

この歌声の主はどんな人なんだろう。

同じ歌手が好きな同士、仲良くなれたり・・・しないよね。

 

さすがにいきなりその人の部屋に入って行って

「僕もこの歌手好きなんですよねwふへへww」

なんて奇行、僕には到底無理なことだ。

 

そんなことが出来ているならば、今頃僕はこんなところに一人でいない。

あぁ、つくづく自分が嫌になってくる。

もう、歌って誤魔化すしかない。

 

「あの日心が触れ合う喜びに~生まれてくる愛に戸惑いながら~」

 

やばい、全然誤魔化せてない。

むしろ何かよからぬ希望を抱いてしまっている。

それでもなんとか最後まで歌いきる。

 

ふぅ~。

物凄く現実逃避したくなってきた。

もう夜中の3時前だし、帰って寝ようかな。

うん、そうしよう。

 

テーブルに置いていたスマホと財布を上着のポケットに入れて、重たい腰を上げる。

それと同時にスマホが床へと飛び降りた。

 

はぁ。

 

ため息をつきながらスマホに手を伸ばし、

画面が割れていないかの確認をする。

 

セーフ、かな。

 

コンコン

 

!?

聞き間違いでなければ、

僕の部屋の扉がノックされている。

あ、もう退室時間か。

いや、このお店は自動延長システムだし・・・

何か頼んだっけ?いやいや、何も頼んでない。

 

一瞬のうちに頭の中でいろいろな思考が疾走している。

しかし、体は硬直したままで。

 

ガチャ。

 

無情にもドアは開かれてしまった。

 

「あの、えと、すみません・・・」

 

そう言葉を発したのは

華奢な体つきの、少し小さめな、艶のある黒髪の女性だった。

 

続く

 

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